有田芳生 議員の「ナチズムの優性思想w」と「ゴドウィンの法則」と「ストローマン」 #杉田水脈

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ナチズムの優性思想?

有田芳生参院議員が、7月25日、杉田水脈議員の話題について、自身のツイッターで次のような主張をしました。

立憲民主党の有田芳生参院議員のこのツイート文は次のように組み立てられています。

  1. 特定の人間を「生産性がない」と切り捨てる杉田水脈議員の浅薄な「思想」もどきの人権攻撃
  2. 無視できないのは、それがナチズムの優性思想による抹殺の歴史に通底しているから
  3. 実際に7万人の障害者が殺害され、10万人以上の同性愛者が逮捕された
  4. この日本に起きている異常を軽視してはならない

このツイートには複数の問題点があると思います。

有田芳生議員は、2.で「ナチズムの優性思想」と書いています。どうやら「優性」と「優生」の区別がついていないようです。

正しくは「優生思想」です。

3.で「実際に7万人の障害者が殺害され、10万人以上の同性愛者が逮捕された」と書いていますが、日本において、過去ホロコーストのような人種政策が取られたことも議論されたこともありません。

にもかかわらず、4.で「この日本に起きている異常を軽視してはならない」と結んでいるのは、どういう意味なんでしょうか?

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「優性」と「優生」の混同

有田芳生議員のツイートには、「優性」と「優生」の混同がみられます。

優性遺伝の「優性」「劣性」はメンデルの遺伝学の訳語です。

双方の親から異なる遺伝子を受け継いだ場合、多くの場合、どちらか一方の遺伝子に含まれた情報の形質だけが現れ、もう片方の形質は現れません。

現れてくる方の情報を持った遺伝子型を「優性」であるといい、現れてこない方の遺伝子型を「劣性」であるといいます。漢字の印象からしばしば誤解されますが、遺伝子型でいう優性とはそれが優秀であるという意味ではありません。単に表現型として外に表れる力が強い、というだけのことです。

2017年9月、日本遺伝学会は、“「優性」「劣性」は、遺伝子の特徴の現れやすさを示すにすぎないが、優れている、劣っているという語感があり、誤解されやすい。「劣性遺伝病」と診断された人はマイナスイメージを抱き、不安になりがちだ。日本人類遺伝学会とも協議して見直しを進め、「優性」は「顕性」、「劣性」は「潜性」と言い換える”、と発表しています。

 

優生思想を持ち込んだのは日本社会党の女性議員

優生学(ゆうせいがく、英: eugenics)は、1883年にフランシス・ゴルトンが定義した造語です。

一般に「生物の遺伝構造を改良する事で人類の進歩を促そうとする科学的社会改良運動」と定義されています。

ゴルトンは、いとこのダーウィンが『種の起源』を出版したことに刺激を受け、遺伝の問題を統計学で解決しようと研究をしました。

1869年の著書『遺伝的天才』(Hereditary Genius)の中で、ゴルトンは人の才能がほぼ遺伝によって受け継がれるものであると主張しました。そして家畜の品種改良と同じように、人間にも人為選択を適用すればより良い社会ができると論じたのです。

これが優生学(思想)です。

日本で、この優生思想が採用されたのは、敗戦後まもない1948年に成立した旧優生保護法です。

旧優生保護法においては、戦後の治安組織の喪失・混乱や復員による過剰人口問題、強姦による望まぬ妊娠の問題などを背景に、日本社会党の福田昌子、加藤シヅエといった革新系の女性議員が、妊娠中絶を完全に合法化させるために、優生思想を取り入れたのです。

当時としては、女性の地位向上のための政策であったようです。

目的に掲げられていたのは、「不良な子孫の出生を防止する」ことです。

ところが、この法律は本人の同意がなくても、都道府県の審査会に申請し、認められれば、障害者に対しては強制不妊の手術が行えるという内容も含まれていました。

今では、遺伝的要素が否定されている事柄も、当時は遺伝が影響すると考えられていました。

1996年。優生保護法は国際的な批判もあり、母体保護法へと改正されました。法律上、強制不妊手術はなくなりました。

こうした日本における優生思想の目的は、あくまでも「社会的弱者が生まれないようにすること」であって、「抹殺」することではありませんでした。

 

ホロコーストなどの人種政策と、優生政策は、似て非なるもの

有田芳生議員は、「実際に7万人の障害者が殺害され、10万人以上の同性愛者が逮捕された」と書いていますが、もちろん、日本において、過去ホロコーストのような人種政策が取られたことも議論されたこともありません。

ナチスの人種政策は、優生学の影響を受けたことは否定できませんが、間違った方向に進んだ極端な政策であって、「優生思想=ナチスの政策」ではありません。

「優生思想=ナチスの政策」といったレッテルは、現在、進化を続ける「出生前診断」についての冷静な議論すら阻害します。

 

安易に「ナチス」という言葉を使用する人を信用してはいけない

1990年に弁護士のマイク・ゴドウィン(Mike Godwin、ウィキメディア財団の法律顧問・法務調整担当)は、「インターネット上での議論が長引けば長引くほど、ヒトラーやナチを引き合いに出すことが多くなる。」という法則を提唱しました。

これを『ゴドウィンの法則』といいます。

「ナチス」という言葉は「悪の代名詞」として定着しています。相手を否定したい時に、この言葉を使用するわけです。一種の安易なストローマン論法です。

相手が物事の本質について議論しようとすると、「お前はナチスを擁護するのか」と話をそらして、問題の本質を隠そうとするわけです。

「ナチス」という言葉を安易に使用する人は、信用してはいけません。そういう人は、その事柄について、本質をきちんと議論するつもりが最初からないのです。

 

政治家が使う言葉は正確でなければなりません

ちなみに、有田芳生議員の言葉について当ブログが取り上げるのは、有田芳生議員の主張に基づいています。

「政治家が使う言葉は正確でなければなりません」は有田芳生議員の言葉です。

参考 NHKハートネット 旧優生保護法 対象外でも行われた不妊手術の実態



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