荻上チキさんの「天皇コラを燃やしたのは富山美術館」という解説はおかしい

10月8日の荻上チキ・Session-22 | TBSラジオ | 火 22:00-23:55 で、気になる発言がありました。

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昭和天皇の写真を燃やして踏みつける映像作品の経緯

特集「『#表現の不自由展 その後』が2カ月ぶりに再開。 荻上チキの #あいちトリエンナーレ 取材報告」という内容です。

番組で、荻上チキさんが、問題となっている「昭和天皇の写真を燃やして踏みつける映像作品」の経緯について説明されているのですが、これがどうもおかしい。

荻上チキさんの解説は、

  • 大浦さんが天皇コラージュ作品を美術館に展示していたが、展示できなくなった。
  • 展示できなくなっただけではなく、自分の作品が美術館に焼却処分にされた。
  • つまり燃やしたのは、市の側、行政が燃やした。

というものです。

 

1時間19分30秒ころから

荻上チキさん「大浦さんという方が映像作品を作っているんですけど、この中で昭和天皇の像が燃やされているということで、御真影を燃やすな、みたいなね、批判が集まっているわけですが。これはもともとインスピレーションの経緯というものがあって。もともとコラージュ作品として、自身の版画作品というものを美術館に展示していたんだけども、それが展示できなくなって、しかもそれが展示できなくなっただけでなくて、美術館の側がそれを焼却処分にしたわけですね。つまり燃やしたのは、市の側、行政の側が燃やしたという経緯があって。そのような仕方で破棄されたという自分の作品というものを、ある種、再現するような作品として映像作品が撮られて。そのかつて撮っていた作品というのをさらにコラージュをした新作として、今回、提示しているというけいじ(経緯?)があるんですね」



燃やしたのは富山近代美術館?

荻上チキさんと同じように「富山美術館が大浦さんの作品を撤去して燃やした、今回のはその抗議の作品だ」と言っている人が、ツイッターでも散見されて、とても気になるのです。

 

それは事実とは違う、天皇を使った作品は撤去もされていなければ、燃やされてもいないと思うのです。

 

Artwords(アートワード)の解説によれば、

富山県立近代美術館の企画展「とやまの美術」(1986)に招待された美術家の大浦信行が、1982年から85年にかけて昭和天皇の図像を部分的に引用して制作した版画連作《遠近を抱えて》全14点が、同展終了後に県議会の教育警務常務委員会で議員によって「不快」と糾弾されたことをきっかけに、右翼団体による抗議活動を招き、これらを受けた同館が同作の非公開と売却を決定し、なおかつ同展の図録を焼却した事件。(Artwords(アートワード))

富山県立近代美術館事件

 

Yahooニュースの「美術家・大浦信行さんと天皇コラージュ事件 創」によれば、

大浦さんの代表作というべき版画「遠近を抱えて」は、彼が美術家を志してニューヨークに渡った時に制作された作品だ。1985年に帰国した大浦さんは、その作品を同年に栃木県立美術館にて展示。続いて翌年3月13日から富山県立近代美術館で開催された「86富山の美術」で、14点のうち10点が展示された。同美術館では、その作品のうち4点を、所蔵するために大浦さんから購入もした(美術家・大浦信行さんと天皇コラージュ事件 創)

 

7月18日、美術館は大浦作品を非公開とする館長見解を県議会で報告、作品を紹介した「図録」の非公開も決めた。後に、その図録を所蔵していた富山県立図書館も、閲覧制限を決めている。(同)

 

版画「遠近を抱えて」は、富山県立近代美術館の「86富山の美術」で最後まで展示され、美術館はそのうち4点を購入しました。

その後、県議会の教育警務常務委員会で議員によって「不快」と糾弾されたことをきっかけに、右翼団体による抗議活動を招き、これらを受けた同館が同作と、「86富山の美術」の作品を集めた図録の非公開を決定しました。

ところが1990年代になって、図書館が所蔵している図録を公開することにしました。その公開初日、天皇を崇拝する富山県の神社で神職を務める男性が、警察の警備を振り切って、図録の大浦作品のページを破り捨てたのです。

その後、美術館側は1993年4月19日、この問題に決着を図るために、所蔵していた大浦作品を売却し、図録470部を焼却処分にするという措置を決めました。

燃やした、といわれているのは、大浦信行さんの作品ではなくて、富山県立近代美術館が「86富山の美術」の記録として制作し販売されていた図録の売れ残りのことでしょう。

よく美術展のおみやげコーナーなどで販売されている、展示会に出品された作品を収録説明している図録です。それを燃やすゴミとして処分したということなのかと思います。第三者に利用されないように処分する方法としては、埋めるか燃やすですよね。燃やした燃やしたと騒ぐことにも違和感があります。

 

これを、荻上チキさんはラジオ番組で、「自分の作品が美術館に焼却処分にされた。」「つまり燃やしたのは、市の側、行政が燃やした。」などと、まるで大浦さんの作品そのものを美術館が燃やしたかのように解説していて、とても違和感を感じました。

 

新築移転

富山県美術館(パブリックドメイン)

※富山市西中野町にあった富山県立近代美術館は、2017年(平成29年)、建設から35年以上経ち老朽化したために、富山駅北西側にある富岩運河環水公園西地区の見晴らしの丘に、総工費約85億円で移転新築し、富山県美術館として開館しています。



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