古典落語の「時そば(ときそば)」では…
16文の料金の二八そばを食べ終わった男が、支払いで蕎麦屋に掌を出させ、一文銭を一枚一枚数えながらテンポ良く置いていく。「一(ひい)、二(ふう)、三(みい)、四(よう)、五(いつ)、六(むう)、七(なな)、八(やあ)」と数えたところで、「今何時(なんどき)でい !」と時刻を尋ねる。
主人が「へい、九(ここの)つでい」と応えると間髪入れずに「十(とう)、十一、十二、十三、十四、十五、十六、御馳走様」と続けて16文を数え上げ、すぐさま店を去る。
という詐欺師が出てきます。
2021年11月に逮捕された釣り銭詐欺の手口は、そんな「時そば」を連想させる手口でした。
FNNプライムオンラインさんが、2021年11月18日に、東京都内の菓子店に設置された、防犯カメラに写った釣り銭詐欺の手口の防犯カメラ映像を動画公開しました。
よくある単純な釣り銭詐欺かと思って動画を見ていましたが、予想外の巧妙なテクニックでした。
その詐欺師のテクニックとは?
2020年8月、釣り銭不足を装う詐欺の一部始終を捉えていました。
Tシャツ、半ズボン姿でメガネをかけた男。 釣り銭として受け取ったお札を右手に持ち、商品を待っています。 従業員から左手で商品を受け取ると、店の外へ。 しかし、すぐに店に戻り、釣り銭が足りないと訴え始めました。
犯行の手口は。
- 1,080円の商品代として1万100円を支払う。
- お釣りとして5,000円札1枚、1,000円札4枚、10円硬貨2枚。 しめて9,020円を受け取る。
- 立ち去る瞬間に5,000円札1枚をポケットにしまう。
- 男は、戻ってきて「おつり9,000円でしょ?」と1,000円札4枚、10円硬貨2枚を差し出す。
- 5,000円が足りないとアピール。
- 店員さんが「9,000円渡したはず」と揉める。
- 男は「もう結構です、きちんとお釣りをもらったのか、もらってないのかわからない」と言い出す。
- そして、男は、もらったお釣り全額と買った商品を返す。かわりに支払った1万100円の返金を要求。
- こうして1万100円を受け取ると、店を出る。
この手口の7以降の部分、単純に不足の5,000円を要求したのではないことがポイントです。
単純に「5,000円足りない」という主張なら、お釣りを渡すときに店員さんがきちんと確認しているはずなので、その主張が通用することはないでしょう。
店員さんは、「面倒な客が来た」と思いながら対応していたはずです。
ところが、「商品を返す」という奇策のために、その場ではうっかり店員さんが騙されて結局、男は差額の 5,000円をだまし取ってしまうわけです。
まるで古典落語の「時そば(ときそば)」 のようですね。
都内では、同様の手口による被害の相談がおよそ50件寄せられていて、警視庁は余罪についても調べを進めているそうです。