3月31日のTBSテレビ、サンデーモーニングで、匿名でツイッターに差別的な投稿、いわゆるヘイト投稿を繰り返していたとして、日本年金機構、世田谷事務所長が同月25日に更迭された事件について、「ハフポスト」日本版編集長の竹下隆一郎さんが解説をしました。
「ハフポスト」竹下編集長の違和感ある解説
この「ネットのヘイトスピーチ」についての解説の内容が、偏った違和感のあるものでしたので、それについて書いてみたいと思います。以下、文字にしてみます。
竹下隆一郎さん「今回、年金事務所所長の差別的な発言、これインターネットで『ヘイトスピーチ』って言われているんですよね。例えば『売国奴』だとか『非日本人』『サヨク』とか、保守主義的な思想を元にして、インターネット上で排他的な言葉を吐くと。例えば、特定の国、中国とか韓国への憎悪、憎しみとかですね。そういった言葉なんですが、どういう人がこういうヘイトスピーチをやっているかというと、かつてはですね、若者とか、インターネットを使っている人っていわれていたんですが、実は経営者だったり、管理職だったり、今回の年金事務所の所長さんもそうですが、社会的立場ある中年男性、そういった方も多いというふうにいわれています。
で、こういうヘイトスピーチをする人、2つに分類ができます。『ネット右翼』という人たちと、『オンライン排外主義者』。どのくらいいるのかというと、『ネット右翼』、8万人くらいの調査をしたことがあるんですが、『ネット右翼』はだいたい1.7%、このくらいいるとされています。一方の『オンライン排外主義者』は3.0(%)、少し多いんですね。
ひとつひとつ見ていきます。『ネット右翼』の人というのはですね、保守主義的な思想を元に排外的な言動を繰り返す人、例えば、『韓国とか中国、出て行け』とかそういったことをいう人たち。
一方の『オンライン排外主義者』はですね、必ずしも保守的な政治思想は持っていないんですが、非常に排外主義的、特定の国の人たちへすごく差別的な発言をしている。
この数の差、何があるかというとですね、『ネット右翼』の人たち、『右翼』という言葉が示すとおり、ある程度、政治とか外交とか、歴史について勉強した上で、発言しないといけないんですが、こちらの『オンライン排外主義者』は、そういった知識もなしにですね、単に特定の国の人たちを出て行けと、いってみれば発言しやすいんですよね。そのために少し多めになっているし、なおかつ今後、増えると、そういった心配な声もあります。
では、こういったインターネット上のヘイトスピーチ、ヘイト発言に対して、どう対策をとっていいか、非常に難しいんですが、ひとつはやはりこのSNSの規制ですね。SNSを運営している会社、例えばツイッターとかフェイスブックの会社なんかも、こういう『売国奴』だとか『非日本人』とか、差別的な発言を排除しようとしたりとか、そういう発言をする人たちの利用を停止する、そういう動きもあります。
ただ、やはり私はですね、インターネットの自由なところとか、言論の自由を信じたいので、こういったネガティブな対策だけじゃなくて前向きな対策も必要だなと思ってます。
『良貨で悪貨を駆逐する』ではないですが、インターネット上にあふれているこういうヘイト発言に負けないぐらいですね、より建設的で、よりポジティブな言論というのはこれから構築していかないといけないですし、私もメディアの編集長としてそういった良質なコンテンツ、良質な記事というのを発信していきたいなと。
一方でやはり、インターネットを使っている、ひとりひとりの方もですね、単にこういった発言、よくないと思うのは大事なんですが、それ以上にこの発言が目立たなくなるくらいポジティブな発言というのがインターネットで増えてほしいなと。ひとりひとりのインターネットユーザーの今後の良識というのが、今回の事案を通して問われていると思います。」
良貨で悪貨を駆逐する?
まず、『良貨で悪貨を駆逐する』という対策が意味不明です。
日本年金機構、世田谷事務所長の匿名ツイッターの問題は、ひとりのツイッター利用者の個人を特定して、いわゆる『サヨク』の人たちが更迭に追い込んだ事件です。
建設的で、よりポジティブな言論がネットにあふれていたとしても、そのようなひとりの発言が駆逐されてなくなるはずがありません。
年金事務所所長の匿名ツイートの問題は、「ネットで匿名で発言する場合は、乱暴で攻撃的な発言を避けて、論理的にするべき」という話に尽きると個人的には思うのですが、「ハフポスト」の竹下隆一郎さんは何やら偏った解説をしています。
『ネット右翼』『オンライン排外主義者』のレッテル
『ネット右翼』と呼べる人たちは全体の1.7%、これまで語られてきたネット右翼像とは異なるタイプの『オンライン排外主義者』が3.0%というのは、2018年10月7日の朝日新聞の記事にある東北大の永吉希久子准教授らのグループによるものです。
ネトウヨ像覆す8万人調査 浮かぶオンライン排外主義者(朝日新聞)
こうして、マスコミが安易に人々をカテゴライズしてレッテルを貼ることじたいが、そもそもの原因です。それが侮蔑語として使用されていくわけです。
『売国奴』だとか『非日本人』『サヨク』がヘイト?
竹下隆一郎さんの説明では、『売国奴』だとか『非日本人』『サヨク』がヘイトスピーチだといっているようにもみえます。
『非日本人』はともかく、『売国奴』『サヨク』がヘイトスピーチとはどういう意味でしょうか?
例えば、「売国奴 安倍」でツイッター検索すれば次のようなツイートを容易に見つけることができます。
売国奴安倍晋三死ねばいいのに
— むるむる (@murumuru_dance) 2018年11月26日
『売国奴』は別に『ネット右翼』だけが使用しているわけではないのです。
それなのに奇妙なのは、『サヨク』をヘイトスピーチだと言っている点です。
カタカナの『サヨク』の意味
カタカナの『サヨク』という言葉が最初に有名になったのは、おそらく1983年の島田雅彦さんのデビュー作『優しいサヨクのための嬉遊曲』です。
この作品では、革命を目指すとか言った運動ではない、大学生がサークル活動を楽しむかのような感覚で左翼活動をすることを『サヨク』と描いています。
その後、この『サヨク』という言葉を、漫画家の小林よしのりさんが、従来の左翼と区別される思想・政治的立場を示す語として積極的に用いて、現在ではネットにおいての蔑称・レッテルへと変化していったのです。
カタカナの『サヨク』は、左翼思想及び共産主義体制の近隣国家にシンパシーを示すが、正面からマルクス主義的な社会革命を標榜することはなく、「平和・国際協調・人権・民主主義・環境保護」といった口当たりのよいスローガンを掲げて活動する思想・立場のことをいいます。
『ネット右翼』も本来は、ネットで右翼的な発言をする人の意味でしたが、そのカタカナ言葉の『ネトウヨ』はネットにおいての蔑称・レッテルとして使用されています。
『サヨク』がヘイトだというのなら、『ネット右翼』もまたヘイトなのです。