画像は、アルジャジーラ
切り取りにミスリードを重ねる攻撃者
「杉田議員は過去の動画で『性的マイノリティーの自殺率は6倍』ということを笑いながら言っていた」というツイートが回っています。
杉田は「LGBTの子はストレートの子に比べて自殺率が6倍なんだってwwでも優先順位低いわよねLGBTなんてww」って言ってるけどhttps://t.co/4CUlDkdcAQ
— タイコ (@TILril7iGYaCKfh) 2018年7月30日
https://youtu.be/Ci5-FYrrx7U?t=11m46s
この動画の11分過ぎ。
杉田水脈「同性愛の子どもは、普通に正常に恋愛できる子どもに比べて、自殺率が6倍高いんだと、それでもあなたは(LGBT学校教育)が必要ないと言うんですかといわれまして。私はそれでも優先順位は低いし、同じですよね。学校の先生は今、モンスターペアレントだとか学級崩壊だとか、やらなくちゃいけないこといっぱいあるのに、こういうことやってる時間はきっとないでしょうし。あと、どれだけ正しい知識を先生が子どもたちに教えられるんですか、と。誤った知識を教えてしまったら、おかしいじゃないですか、と。」
この動画の一部を切り取り、「杉田水脈が同性愛の子どもの自殺率が6倍高いということを笑って話している」という言説を、広めようとしている人がいるようです。
この話には、いくつかのミスリードがあるようですので、正しい話を整理してみます。
正しくは男性の「異性愛でない人」の「自殺未遂率」が5.98倍
「同性愛の子どもは、普通に正常に恋愛できる子どもに比べて、自殺率が6倍高い」と杉田水脈さんが話していますが、これはおそらく、テレビの討論番組の担当者か杉田水脈さんの勘違いです。
元ネタは朝日新聞2008年10月29日の朝刊の記事です。
データは、「自殺率」ではなくて、「自殺未遂率」です。
「LGBTの子はストレートの子に比べて自殺率が6倍なんだって」と日本の国会議員が笑っている、という話はフェイクです。
「自殺率」と「自殺未遂率」は、まったく違うものですから、注意して下さい。
この朝日新聞の記事では、男性のいじめ被害に遭った人の自殺未遂率、薬物を使用した経験のある人の自殺未遂率は書かれていますが、「異性愛でない人」の自殺未遂率は書かれていません。
「異性愛でない人」の自殺未遂率は、こちらのHP「わが国における若者の自殺未遂経験割合とその関連要因に関する研究(大阪の繁華街での街頭調査の結果から)」に書かれています。
自殺未遂経験者は「異性愛者」の方が、はるかに多い
そのHP「わが国における若者の自殺未遂経験割合とその関連要因に関する研究(大阪の繁華街での街頭調査の結果から)」に書かれているデータによれば、
男性の異性愛者986人中、自殺未遂者は46人(4.7%)
男性の同性愛者/両性愛者/その他49人中、自殺未遂者は12人(24.5%)
で、男性の「同性愛者/両性愛者」の自殺未遂率が、「異性愛者」の自殺未遂率の5.98倍(約6倍)になるとしています。
5.98倍といっても、「同性愛者/両性愛者」は、自殺未遂経験者わずか12人のデータです。
一方、「異性愛者」は、率にすると低いですが、実数としては46人で、「異性愛者」の自殺未遂経験者の方が圧倒的に数が多いことがわかります。
どちらも自殺未遂の対策は必要ですよね。約6倍だから、LGBTの子どもの自殺対策のみが必要というのは、おかしな話です。
女性のデータでは、
女性の異性愛者1031人中、自殺未遂者は115人(11.2%)
女性の同性愛者/両性愛者/その他29人中、自殺未遂者は6人(20.7%)
となっていて、女性は、男性の「同性愛者/両性愛者」の自殺未遂率のような開きはありません。
女性の「異性愛者」の自殺未遂者数は115人と、男性の倍以上になっています。
男性も女性も、自殺未遂経験者は「異性愛者」の方が、はるかに多いのです。ミスリードもいいとこです。
北九州市の いのちとこころの情報サイトでは、自殺未遂者の約9割以上に何らかの精神障害がある、としています。精神障害をICD-10というWHOの分類にしたがってみてみると、さまざまな精神障害が含まれるのだそうです。
思春期には、さまざまな自殺未遂要因があり、原因はさまざまです。
自殺未遂経験者には、それぞれの精神障害に対して専門医療機関での治療が必要になります。精神症状のコントロールを図ることで、将来の自殺企図を防ぐことができます。自殺行動に及んで、自殺未遂者と判断された場合には基本的に精神科的治療が必要です。
「同性愛者/両性愛者」であることは、自殺未遂のリスク要因のひとつでしかありません。
この場合に必要なのは、「同性愛者/両性愛者」がリスク要因であることを知っているカウンセラーなり精神科医が、担当すべきだということです。
男性の「同性愛者/両性愛者」のデータだけに過剰に反応
実数としては「異性愛者」の方がはるかに多いのに、男性の「同性愛者/両性愛者」12人のデータのみで割合が高かったという結果をことさらに取り上げて、過剰に反応するのには違和感があります。
圧倒的に多い「異性愛者」の自殺未遂経験者を無視して、男性の「同性愛者/両性愛者」の自殺未遂率約6倍だけを取り上げていることに違和感があり、この動画ではそのギャップに出演者が思わず失笑してしまった場面なのではないか、と個人的には感じています。
しかも、男性の「同性愛者/両性愛者」の自殺未遂者が6倍高い、というデータは、大阪のアメリカ村という繁華街に遊びに来た若者だけのデータです。
あまり遊び歩かない若者は含まれず、これを全国の若者のデータと読み替えるには無理があります。
- 「自殺率」と「自殺未遂率」の混同
- LGBTよりも「異性愛者」の自殺未遂者(実数)の方が圧倒的に多いのにミスリード
以上の理由により、「杉田水脈がLGBTの子どもの自殺率が6倍高い」と言って笑っている、というデマまがいの情報を拡散している人たちには、「悪意」、何か別な目的が感じられるのです。