【検証】朝日新聞 南彰記者の菅官房長官へのひっかけクイズ質問と大いなる勘違い

2012年3月に発売された菅義偉 総理(当時は官房長官)の著作『政治家の覚悟―官僚を動かせ』の改訂版が2020年10月20日に発売されました。(記事末尾に商品リンクあり)

この記事は、2012年発売のこの本に関する、朝日新聞の南彰記者の2017年8月8日の菅官房長官記者会見でのクイズ質問のトリックについて検証したものです。

(この記事は2017年のものを一部リライトしています。)

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菅官房長官が自著の記載を忘れたかのようにミスリードした朝日新聞の手法

 

この本は現在では高額な中古本しか売っていません。ほとんどの図書館にもなく、探すのに苦労しました。

 

朝日新聞の南彰記者の「ひっかけクイズ」

この本を元に、朝日新聞の南彰記者が菅官房長官に、「ひっかけクイズ」を出したのが8月8日午前の官房長官記者会見です。

菅「まったく一点の曇りもない!」vs「加計ありき!」東京新聞・望月記者8/8午前

まず、質問の全文を文章にしてみます。

文字書き起こし

動画13分01秒より

朝日新聞南彰記者「朝日新聞の南です。まあ八田座長、民間の方がですね、そうおっしゃられているというのはわかるんですが、歴代の保守の政治家は歴史的検証に耐えられるようにということで、公文書の管理にはかなり力を入れてこられたと思う中でですね、ある政治家は『政府があらゆる記録をこくめいに(国民にと聞こえる)残すのは当然で、議事録ってのはそのもっとも基本的な資料で、その作成をおこたった(行ったとも聞き取れる)ことは国民への背信行為だ』とそういうことも仰られている政治家がいるんですけど、その発言をしていた本にしるされていたのはどなたか、官房長官、ご存じですか?」

菅官房長官「知りません」

事務方「この後、公務の日程が入っておりますので、ご協力お願いします」

朝日新聞南彰記者「これ、官房長官の著作に書かれているんですが。あのー、かつて2012年に書かれた著作に表明されていた見解と、今政府で起きているところとの照らし合わせてですね、忸怩たる思いとか、やはりこうきちんと残してきちんと残すべきだというお気持ちにはならないんでしょうか?」

菅官房長官「あのー、私は残していると思いますよ。ワーキンググループではですね、ここは民間の有識者の委員の方々です。そこでその叡智を集めて岩盤規制をですね。突破するための議論を尽くしていただいて、議事の運営については、座長が委員の方々と相談しながら、これ決めているものであります。そして昨日、八田座長そしてまた委員の原さんはですね、国家戦略特区制度の趣旨にかなうように運営をしている、さらに非公式な説明補助者の発言は議事要旨に掲載しないと、ご指摘のケースも通常の扱いであると極めて明確なことを昨日、申し上げたのではないでしょうか」

 

以上のようなやりとりでした。

(文字書き起こしでは、わかりやすいように漢字を入れていますが、実際の質問では漢字はありませんので、わかりにくい部分が多々あります)

 

以下略ちゃんが一回では理解できなかった南彰記者の質問部分

喋り言葉では引用文章はわかりにくいです。南彰記者の質問でも、わかりにくい部分がありました。

  • その作成をおこたった(行ったとも聞き取れる)ことは国民への背信行為だ」……「怠(おこた)った」なのか「行(おこな)った」なのかが話し言葉ではわからない。
  • その発言をしていた本にしるされていたのはどなたか」……本の中で指摘している人物のことなのか、本を書いた人物なのかが、わからない。

 

動画を最初に見たときは、南彰記者のこの2つの喋り言葉がとても聞き取りにくくて、一瞬、何を言っているのかよくわかりませんでした。

ていねいに文字に起こしてみると意味がわかるのですが、菅官房長官も通告なしでこれを言われても、何のことだかわからないのではないか、という印象でした。

これは朝日新聞に何かウラがあるなと思い、該当の本を探して読んでみようと思ったのでした。

 

南彰記者の引用した本の該当部分

政治家の覚悟―官僚を動かせ 菅義偉(よしひで)

第四章の「東日本大震災で露呈した政府の機能不全」の205ページに、その記述はありました。

ここでは、民主党政権が官僚を敵対視してきたために、東日本大震災の復興事業で官僚とギクシャクしていた関係が書かれています。

しかも、こういった会議の大半で議事録が残されていませんでした。千年に一度という大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為であり、歴史的な危機に対処していることへの民主党政権の意識の薄さ、国家を運営しているという責任感のなさが如実に現れています。

(『政治家の覚悟―官僚を動かせ』205p)

南彰記者のクイズ質問は、この文章からの抜き出しです。

引用部分を微妙に話し言葉に変えていた南彰記者

出典の文章とは、わずかですが異なる部分があることもわかりました。出典元の記述では、

政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民の背信行為であり

となっている元の文章を、

南彰記者の質問では、

政府があらゆる記録をこくめいに(国民と聞こえる)残すのは当然で、議事録ってのはそのもっとも基本的な資料で、その作成をおこたった(行ったとも聞き取れる)ことは国民への背信行為だ

と、微妙ですが、

「議事録最も基本的な資料です。」→「議事録ってのはそのもっとも基本的な資料、」

と、話し言葉に変えてしまっているのです。

「千年に一度という大災害に対して」という限定を無視

元の文章では、「千年に一度という大災害に対して」「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」と書かれています。

ところが、南彰記者の質問では「千年に一度という大災害に対して」という限定されている部分がなくなっています。

何について書かれていた文章かもわからないようにしてクイズ質問

前後の文章をぶった切って、何について書かれている文章なのかすらわからないように切り取ってクイズ質問していることがわかります。

出典元の文章は、民主党政権での東日本大震災の復興事業の混乱について書かれていますが、南彰記者の質問文ではそのことには一切触れていません。民主党政権批判であることすら隠しているのです。

 

5年以上も前に自分の書いた文章を、前後のつながりを切り取って、50文字ほどだけ、それも喋り言葉に変換されて突然突きつけられて、即座に自分の書いた文章だと判断できる人が、はたしてどれほどいるのでしょうか?

以下略ちゃんも、過去のツイートから50文字抜き出してきて出されても、絶対に自分のツイートだとはわからない自信があります。

 

見出しでも同様で、「ねつ造」と言われない範囲で言葉を切り取って、見る人聞く人が意味を取り違えるように、うまくミスリードする。

これが朝日新聞が多用するトリックの手法です。

せめて以下略ちゃんが引用した文章の全文を読み上げていたら、菅官房長官が「知りません」とは答えなかったのではないかとも考えるところです。

議事要旨と議事録を混同する大いなる勘違い

さらにおかしなことは、

菅官房長官の本で、「民主党政権がたくさん対策本部を作って混乱し、しかもその会議では議事録がまったく残されていなかった」と書かれていることを、

南彰記者は「議事要旨に、正式な出席者でない説明補助者の加計学園関係者の発言が書かれていない」ことと比較していることです。

菅官房長官は「議事録がない」と書いていたのを、「議事要旨の記載内容の採用基準」の話にすり替えているのです。議事要旨は作られているのですから的外れなことは明らかです。

しかも、議事要旨と議事録は違います。南彰記者の大いなる勘違いです。

議事録は残されていてヒアリングから4年後に公開予定ですから、そこに説明補助者の扱いがどうなっているのかは現時点ではわからないのです。

結局、南彰記者は、議事要旨と議事録の区別がついていないのではないかという疑いにたどり着いてしまいます。

 

悪意を感じる朝日新聞の南彰記者の記事

このひっかけクイズ質問で、菅官房長官が「知りません」と答えたことを南彰記者は記事にしました。

朝日新聞の南彰記者が書いた記事がこちらです。

自著での主張も記憶にない? 菅官房長官「知らない」

 過去には公文書の重要性を訴えていたのに、そのことすら記憶にない――。「記録にない」「記憶にない」という政府答弁が相次いでいる学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題をめぐり、菅義偉官房長官が8日の記者会見で、公文書の公開のありように関する自著での主張を失念してしまっていることが浮き彫りになる一幕があった。

菅氏は野党時代の2012年に出版した「政治家の覚悟」(文芸春秋)で、「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」と記していた。

加計問題で国家戦略特区ワーキンググループの議事録の公開に応じる姿勢を示さない菅氏に対し、朝日新聞記者がこの部分を読み上げ、「これを本に記していた政治家は誰かわかるか」と尋ねたところ、「知らない」と答えた。

記者が「官房長官だ」と指摘し、「政府の現状と照らし合わせて、じくじたる思いやきちんと記録に残すべきだという気持ちにはならないか」と尋ねると、菅氏は「いや、私は残していると思う」と主張した。(南彰)

(自著での主張も記憶にない? 菅官房長官「知らない」南彰2017年8月8日16時05分)

記事にある「加計問題で国家戦略特区ワーキンググループの議事録の公開に応じる姿勢を示さない菅氏に対し」の文章は疑義ありです。

「議事録」の公開はルールで4年後と決められています。「議事録」は残されています。

今回公開されたのは、その速報版の「議事要旨」なのです。そして、南彰記者らがゴリ押しで求めているのは非公開とされている説明補助者の発言部分であり、その他のやりとりはすべて公開されているのです。

 

朝日新聞南彰記者のトリックまとめ

  1. 5年以上も前の著作の文章の前後関係をぶった切って、しかも話し言葉に変えて、何について書かれている文章かわからないようにして、聞き取りにくい言葉で菅官房長官に質問した。(不明瞭な言葉を使った誤認の誘発)
  2. 「千年に一度という大災害に対して」「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」という限定した記述だったのに、「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」と拡大解釈した。(前提条件の省略)
  3. 「議事要旨」と、4年後に公開の「議事録」を混同した。(用語の混同)
  4. 菅官房長官が「議事録」が残されていなかったと書いた文章を、「議事要旨」の内容の記載事項採用基準の話にすり替えた。(趣旨のすり替え)

 

朝日新聞の南彰記者のひっかけ記事は大成功

東京新聞の望月衣塑子記者も喜んでこの記事をツイートしています。

朝日新聞の南彰記者のひっかけ記事は大成功。朝日新聞を信じて菅官房長官を批判する人々。

 

クイズ質問のやり取りをしつこく政権批判に利用

その後、この「ひっかけクイズ質問」のやりとりを、あたかも菅官房長官が何でも「知りません」と答える『古狸』のように印象操作に利用していきます。

 

2012年3月に刊行された菅総理の唯一の著書『政治家の覚悟 官僚を動かせ』を元に、その後の官房長官時代のインタビューなどを収録した、改訂版が2020年10月20日に発売されました。※この記事の記述部分は掲載されていません。

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